About〈往復朗読〉
〈往復朗読〉とは、青柳菜摘と佐藤朋子の2人のアーティストによる、物語やテキストの断片を日ごとに選び、読み語るオンライン・パフォーマンスのアートプロジェクトです。2020年の新型コロナウイルス感染症によるパンデミックの事態をきっかけに、緊急事態宣言が発出された直後である同年4月20日より始まりました。SNS上で互いに自分がいる場所から、Twitter(現:X) / Periscopeを通して、その日限りの出来事を映像でライブ配信をしてきました。
この活動は、コロナ禍から時を経て現在に至る今日まで、日々の営みとして不定期に続けられています。言葉の特性の一つである「ことば遊び Word Play」に原点回帰する試みは、共に離れた地点から「交える(交換、交通、交歓、交遊……)」ことの意味を再考する実践であり、継起の記録として応答する〈声〉をタイムラインに残していくことで、芸術と生の関係性を問い直します。
読む内容など、もはやどうでもよい。Twitterから今日も「往復朗読」の新着通知が来る。今日の朗読は27:33、もう少しで朝。今日は本に付箋を付けて何箇所も読んでいる。今日の朗読はキッチンで生地を捏ねながら。“枕”と称して朗読の前に話をすることもあれば、気が付くともう読み終わっている日もある。
インターネットは見えない時間を繋ぐおおきな役割を果たしたが、それと同時に人々が世界の全貌を捉えられるかのような錯覚を起こさせた。大事件は、誰にとってもの大事件となり、知らずうちに世間の時間が大々的に停止しまったように思わせる。髪の毛が伸び、家を引っ越し、本が増えていっていることを、いつの間にか忘れてしまう。私はその引き留められない時間を、現在ではなく未来に書き留めたい。
映像に残った朗読は、公になった「たった今」である。”今”は、タイムラインを右往左往しながら相手の声に向かう。読む本はその瞬間を体現するでも、隠喩するでもなく、読む行為自体が“今”の寓意となる。読み間違えが、息の詰まりが残って、いつまでも明日に反響していく。
青柳菜摘
レクチャーの誕生は、朗読といわれている。朗読をするということは、誰かによって過去に書かれたテキストを声に出して読む、ということだ。レクチャーは通常、教える人と、教えを受ける人がいるが、朗読において、「教え」を受ける対象は、聞き手だけではない。朗読を行う人も、言葉を声に出すことによって、言葉の受け手となる。声に出して読むという行為には、複数の享受が同時に折り重なっている。
本プロジェクトの「往復朗読」は、ライブ配信で行われたため、聞き手は画面の向こうにいる。配信された内容は自動でアーカイブ化され、聞き手は配信時だけではなく、未来にもいる。読み手の私は、本に書かれた内容を、聞き手に向けて話す。言葉は私のからだに響き、私にとって異物とも呼べる思考や声たちを、私自身もまた享受していく。
本に書かれた言葉を借りて、声は放たれていく。声は人との距離に敏感になっている。声は、聞き手や声の持ち主を通っていき、双方のからだを震わす。朗読は、からだを介して自分ではない誰かとの距離を縮め、近づけていく。
佐藤朋子
◼ ゲスト朗読者
朝倉千恵子, 飯岡幸子, 荏開津広, カニエ・ナハ, 郷拓郎, 小宮麻吏奈, 大道寺梨乃, 田上碧, チーム・チープロ, 時里充, 日和下駄, 伏見瞬, 布施琳太郎, 薮前知子, 山下澄人, honnninnman
※ 新しい朗読者は随時更新予定。
◼ サークル・ナレーティング
コ本や honkbooks、佐藤朋子(アーティスト)によるパフォーマンス・シリーズの共同企画。朗読、ポエトリーリーディング、レクチャーパフォーマンス、オープンマイク……といった「言葉」や「声」を表現のメディウムとした実験場。「言葉」の身体的な厚みや、「声」の詩的情動に触れる経験を見直し、オルタナティヴ・シアターとしての新規性のあるパフォーマンスを探求している。毎回、Sectionごとに「テーマ」「メソッド」「アーティスト」を案出して、《現在》を問い直す「ナレーティング」を試行していく。「サークル・ナレーティング」という企画名は、19世紀ロシア文学を代表するレフ・トルストイ(1903-1911)による、書物からの引用と著者自身の考察を編纂したアンソロジー作品の『文読む月日』に端を発している。この英訳タイトルの一つが『A Circle of Reading』。「読書の輪」ではないが、「Narrating」をめぐって分野をまたがって集い会い、パフォーマンス表現のオープネスな「Circle」を目指して活動している。
◼ 青柳菜摘 Natsumi Aoyagi
1990年東京都生まれ。ある虫や身近な人、植物、景観に至るまであらゆるものの成長過程を観察する上で、記録メディアや固有の媒体に捉われずにいかに表現することが可能か。リサーチやフィールドワークを重ねながら、作者である自身の見ているものがそのまま表れているように経験させる手段と、観者がその不可能性に気づくことを主題として取り組んでいる。近年の活動に「彼女の権利——フランケンシュタインによるトルコ人、あるいは現代のプロメテウス」 (ICC, 2019)、第10回 恵比寿映像祭(東京都写真美術館, 2018)、「家の友のための暦物語」(三鷹SCOOL, 2018)など。
WEB|datsuo.com
Twitter|twitter.com/datsuo
◼ 佐藤朋子 Tomoko Sato
1990年⻑野県⽣まれ。東京藝術⼤学⼤学院映像研究科メディア映像専攻修了。レクチャーパフォーマンスを主として「語り」による表現活動を行う。主な作品に、2018年《The Reversed Song, A Lecture on “Shiro-Kitsune (The White Fox)”》、《103系統のケンタウロス》(個展:Gallery Saitou Fine arts、神奈川)、《Museum》(個展:「MINE EXPOSURE」(BIYONG POINT、秋田))、2018年 – 2019年《瓦礫と塔》《ふたりの円谷》(Port B 東京修学旅行プロジェクトにて上演)。
WEB|tomokosato.org
Twitter|twitter.com/tmkstooo
デザイン:柳川智之
コーディング:杉浦俊介